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Henry Dean Interview

interviewer : Michiko Hirata

text : Kyoko Furuyama

photo : Joji Okamoto

2022年10月、TISTOU代表の平田が約2年ぶりにベルギー・アントワープの郊外に建つ、Henry Deanのショールームを訪問。現在、ブランドを率いる代表のジムと、妻でデザイナーのヴァネッサとは25年以上の付き合い。ふたりとの再会を機に、あらためてHenry Deanのものづくりについてインタビューを行いました。

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撮影協力:Minotti

リサイクルガラス×ハンドメイド

Henry Deanのアイデンティー

ーーーHenry Deanは、ブランドがスタートした1972年からフラワーベースの原料としてリサイクルガラスを使っていますね。

 

ジム 現在、リサイクルガラスの使用率は、小さいものは約100%、大きいものは約50%で、トータルで90%程度実現しています。さらさらした原料を溶かして作るソーダガラスと異なり、リサイクルガラスは溶かす際に気泡が入りやすいのですが、特に大きなものだとそれが強く出てしまうんです。

以前は主に窓ガラスだったのですが、私たちの技術が進歩したことでさまざまなガラスを使うようになりました。リサイクルガラスはグリーンやブラウンといった色がつきやすいのですが、Henry Deanのフラワーベースに用いるガラスはできるだけクリアにしたい。ガラスを溶かしたり冷ましたりする温度調整やガスの圧力調整、白いガラスを加えるなど、研究を重ね、ガラスをクリアにするための独自の手法を編み出しました。リサイクルガラスを使うことは、当初、職人に嫌がられることも多かった。でも誰にも開拓されていない技術だったからこそ、研究して使うことにしたんです。

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ーーーリサイクルガラスは、一般的なソーダガラスと比べてどんな違いがあるのでしょうか?

 

ジム 前述の気泡が入りやすい点もそうですが、リサイクルガラスはソーダガラスよりも安定性が低く、扱いがむずかしい。これは一般的にはデメリットかもしれませんが、私たちにとってはメリットなんです。だって、そこにサプライズが生まれるから。たとえば、ガラスを溶かす温度が5℃違うだけで色ががらっと変わるんです。

リサイクルガラスは環境保全が叫ばれる今でこそ注目されていますが、当時、僕たちはリサイクルガラスしか入手できなかったから使わざるをえなかった。でも、リサイクルガラスはさまざまな表情を見せ、ふたつと同じものはできない。そこが自然で人間らしいというか、おもしろいエフェクトを生み出すと感じたんです。父のヘンリー・ディーンがリサイクルガラスを使い始めてしばらくすると、リサイクルガラスに注目が集まり、ヨーロッパ各地でさまざまなプロダクトが作られるように。だから、ほかのメーカーがやっていないことに挑戦したいと、色を入れて手で吹いて形づくるというHenry Deanのオリジナリティーを確立していきました。

 

ーーリサイクルガラスが、Henry Deanというブランドを形づくっているのですね。日本のガラス職人にHenry Deanのフラワーベースを見てもらったとき、どうやって作っているのかがまったくわからない、と言われたことがあります。

ジム 当然ながらクリエイションが根底にあって、そのうえでたどり着いたのがリサイクルガラスです。そして、リサイクルガラスとハンドクラフトを融合させることが僕たちのチャレンジであり、アイデンティティーだと思っています。

 

リサイクルガラスのプロダクトは本当にむずかしい。ちょっと使うだけだと“ふつう”のものにしかならない。リサイクルガラスらしい表情が出ないんです。僕らは50年間の蓄積があって、今がある。職人たちはガラスを吹けばそのコンディションを理解できる。赤ちゃんがいつもと違う泣き方をしていたらお母さんがすぐに分かるように。

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“Henry Deanらしさ”を追求した色、かたち

ーーHenry Deanが生み出す色は独特です。どんなものがインスピレーション源となっていますか?

 

ヴァネッサ 自然や日常の何気ない風景から着想を得ることが多いですね。ファッションが大好きだからその影響を受けることももちろんあるわ。スペインの水族館で見たトロピカルフィッシュだったり、森の中を散歩しているときに、落ちていたプラスチックのゴミを見て、「ナチュラルな色と明るい色を合わせるのはおもしろいかも」と思ったり。

 

色のことは四六時中頭の中にあって、アイデアが一つ浮かべば、ドミノのように次々と現れる。天から降ってくる、とでも言うのかしら。でももっとも大事なのは、そのアイデアを実現できるかどうか。すぐに完成するものも稀にあるけど、たいてい何カ月もかかる。ひとつの製品を複数の工場で生産することも多く、工場ごとの個体差がありすぎると製品化がむずかしい。だから結局実現できないケースも多いんです。

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ジム 彼女は完璧主義だからね。自ら前に出ようとしない控えめな性格だけれど、ふつうならチームで作り上げるくらいの豊富なアイデアをもったクリエイティブな人。だから、ふとした瞬間にアイデアがわいてくることも多い。僕は長年職人たちと接してガラスに関する知識をもっているから、彼女の素晴らしいアイデアが技術的に実現可能かを、真夜中に議論したりもするんだ。

 

彼女は出来上がりが待ちきれなくて、夜中にオーブンを開けちゃうこともある。思い描いていた色になっておらずがっかりしたり、「途中で開けちゃだめだよ!」って職人たちに怒られたりしてるよ(笑)

ーーーデザインやフォルムはどんなところからアイデアが生まれるのでしょうか?

 

ヴァネッサ 「いいな」と直感的に感じたものは、ガラスで作ってみたいといつも思うの。ハンドバッグでも、魚でも、自然の風景でも。DEAN FLOWERSに関していえば、花を生けることが前提なので、実用性に重きをおいて“シンプル”であることを心がけています。“シンプル”であることを追究していくと、古代の陶器や1950年代の花器などに行き着いて、ヒントをもらうこともありますね。

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そして、“シンプル”と“色”が合うかどうかを大事にしています。だから、DEAN FLOWERSのフラワーベースは、シンプルだけどひと目でDEAN FLOWERSだとわかるのではないでしょうか。DEAN FLOWERSのフラワーベースは、花の生けやすさを考慮してシンプルに作っているにもかかわらず、ユーザーのもとへたどり着くと、同じものでもクラシックな雰囲気に見えることもあれば、モダンな表情を見せることもある。それが“シンプル”ゆえのおもしろさだと思っています。

ジム 世界中にいるさまざまな人たちが、それぞれのスタイルでHenry Deanのフラワーベースを使ってくれている。そしてそこに素敵な花が生けられている。そんなシーンを見るのが幸せだし、誇らしい瞬間ですね。

 

北イタリア、ヴェネチアの小さな島、“ムラーノ島” で作られるムラーノガラスは、透明度の高いガラスと鮮やかな発色がブランドを形づくっていますよね。Henry Deanも同様に、原料のリサイクルガラスにフィットしたエネルギーに満ち溢れる色と力強さをもつプロダクトを生み出したいといつも思っています。

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ガラスへの愛情がつなぐ

ものづくりの文化

ーー創始者であるヘンリー・ディーンのクリエイティブやガラスに対する思いを、どのように受け継いでいらっしゃいますか?

 

ジム 僕がこの仕事を継いで30年、ヴァネッサがブランドのクリエイティブを担うようになってから20年が経ちました。クリエイティブに関しては、ヘンリー・ディーンのポリシーは当然受け継いでいるものの、近年はヴァネッサのスタイルが確立しつつあるのではないかと感じているところです。

ガラスへの思いに関していえば、経営が厳しく、生き残る術をもたないガラス工場を、Henry Deanがもつ知識や技術、経験で立て直すことが、僕たちの使命だと思っています。僕がガラスの世界に魅了されたのは、Henry Deanのフラワーベースを生産していたセビリアのガラス工場で働いた学生時代。朝5時に工場に行き、職人にガラスの作り方を教わり、休憩時間に向かいのカフェで一緒にお茶を飲んだり。長い時間をともに過ごして、彼らのガラスへの思いと生き方に恋に落ちた。それが今でも続いているんだ。

 

新しい挑戦を嫌がる職人も多いけれど、こまめに工場に足を運んで、僕らがもつノウハウを伝えつつ、ひとつのものを一緒に作り上げています。当初は8つ程度のはずが、現在では18つもの工場がHenry Deanのものづくりを支えてくれている。製作現場が多いほど問題は発生するし、相談も増えるから、寝る暇がないけどね(笑)。

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撮影協力:Minotti

ーーーTISTOUは日本でHenry Deanを展開して25年になります。日本の市場に独自の手法でHenry Deanの魅力を伝えるTISTOUのクリエイティブに、どのような印象をおもちでしょうか?

 

ジム ファンタスティック! TISTOUはHenry Deanにたくさんのエネルギーを使って、独自の方法で表現してくれていますね。僕たちがどんな意思をもってHenry Deanを続けているかを、TISTOUは理解してくれていると感じます。

 

歴史も文化も違う国で、私たちとはまったく異なる表現なのにもかかわらず、思いがしっかりと伝わっていることに、いつも感動しているよ。Henry Deanのものづくりへのリスペクトも感じられますね。

 

ヴァネッサ TISTOUがHenry Deanを日本に紹介してくれることを誇りに思うわ。思慮深く、丁寧に、一生懸命に向き合ってくれていることが本当にうれしい。私たちはプロダクトだけでなく、そのうしろや周りにいる“人”が何よりも大切なの。Henry Deanのスタッフや職人、TISTOUをはじめとする輸入代理店や日本全国の販売店の皆さん、そしてHenry Deanを使っていただいているお客さまにいつも感謝しています。

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